AIは本当に仕事を奪うのか?経済学者が語る労働市場の未来

Chat GPTがリリースされて6ヶ月以上が経ちどんな人にもAIが身近な存在となりました。
AIに関する最大の懸念は、仕事が奪われることでしょう。アメリカでは2023年5月、AIによる失業が4,000件発生し、全体の失業率は前年同月比で20%増加したというデータもあります。
AI導入による前向きなレポートもあります。
大規模ソフトウェア企業の顧客サービス部門を対象とした研究で、ChatGPT導入により従業員の生産性が大幅に向上した。特に、スキルが低い従業員において顕著な向上が見られ、スキルが高い従業員への影響は限定的だった。
この結果から、AIが従業員のスキル格差を縮小する可能性が考えられます。
この見解は興味深く、過去40年間のテクノロジーが労働者に与えた影響に関する従来の経済学者の見方とは対照的なのです。
多くの経済学者は、テクノロジー、特にコンピューターが労働における不平等を生み出すと考えてきました。
本当にAIが導入されることでわたしたちの仕事がこのまま奪われていくのでしょうか?
ポッドキャスト「Planet Of Money」のエピソード「How AI could help rebuild the middle class」をもとにある専門家の考え方をシェアします。
歴史的ターニングポイント
MITのデイビッド・オーターは世界有数の労働経済学者で、AIが労働にもたらす影響を考察する上で、テクノロジーと労働の歴史が不可欠だと主張しています。
歴史的な転換点は大きく2つあります。産業革命とコンピューターの導入です。
産業革命

まず一つ目は、18世紀後半にイギリスで始まった、蒸気機関などの技術革新による機械化と大量生産が特徴の「産業革命」です。
産業革命以前、1人の職人は製品の全工程を一貫して担っていましたが、大量生産時代に入り、製造は細分化され機械と技術のない労働者による分業体制へと移行しました。
この変化により多くの職人技術が失われました。
当初、職人から転じた工場労働者は低賃金かつ低スキル労働を強いられ、この変化は否定的に捉えられました。
しかし、機械で作れるものは、衣類に留まらず車まで製造できるようになりました。
そうなってくると工場長はよりスキルのある工場労働者が必要となってきたのです。
高価な機械を使い精密な製品を作るためには、工場内でのそれなりのルールが必要となりました。
ルールに従って働く工場労働者を、大量生産工場で働く”中流技術者”とデイビッドさんは呼んでいます。
大学での学位を持たない人々にとって中流技術職は魅力的な仕事でした。
従来、学位がない人は低賃金のレストランや清掃員等の仕事しかできませんでした。しかし、一定の知識や技能を要する中流技術職の出現により、中流階級は大きく成長していきました。
産業革命 =
職人は仕事を失い、中流技術職という仕事をうみだすことで中流階級を助けた。(学位なしでも賃金のよい仕事)
コンピューターの出現

二つ目は、20世紀後半にアメリカで始まった、半導体技術などの革新による情報処理の自動化とネットワーク化が特徴の「情報革命」です。
産業革命で生まれた中流技術職がロボットにより自動化されてしまいました。さらに事務職はコンピューターソフトウェアによってとって変わられたのです。
では悪いことばかりだったのでしょうか?
高学歴労働者(医師、弁護士、マーケター、研究者など)は、メール、スプレッドシート、インターネットの活用により、情報処理やルーチン業務を自動化し、業務効率を向上させました。デイビッドさんは彼らを「エリート階級」と呼んでいる。
一方、フードサービス、清掃、警備、エンターテイメント、レクリエーションなど、労働集約的な仕事に従事する人々にとって、状況はほとんど変わりませんでした。
これらの分野では、コンピュータ化の影響は限定的でした。
中流技術者は、中程度のスキルを必要とする職業から排除されて、上位職への移行は困難になりました。大学に行って高学歴労働者になる時間とお金がないからです。
製造業を失った大人が、法学や医学の学位を取得することは稀で、トラック運転手、レストラン従業員、警備員などの職に就くしか道がなかったのです。
つまり、コンピューター時代は大量生産の専門知識の価値を下げ、エリート専門知識への需要を大幅に高めたのです。
コンピューター時代 =
工場で働く中流技術者がロボットに職を奪われ、エリート階級は仕事の自動化で恩恵を受ける。各階級間での核差が拡大。
AI時代(現在〜)

Erik Brynjolfsson、Danielle Li、Lindsey Raymondによる新しい研究が発表されました。
それは、あるソフトウェア会社が古いバージョンのChatGPTを導入した後に、その会社と労働者に何が起こったかを調査したものです。
この研究では、AIシステムが労働力の生産性を大幅に向上させることがわかりました。
しかし、興味深いのは、その技術を利用して恩恵を受けたのは一部の労働者であり、実際には経験豊富で高いスキルを持つ労働者はほとんど恩恵を受けていないということです。
これは、これまでの見解を逆転させているように思われます。つまり、AIが下層階級を補完し、上位階級にはほとんど影響を与えていないのです。
これ以外にも似たような研究が発表されています。これらから言えることは、AIが階級間による生産性の不平等を減少させたということです。
AIと仕事 今後の考察

ではデイビッドさんが考える今後の考察はどういったものなのでしょうか?
AIによるエリート専門知識の低コスト化・普及
医療行為には通常、医学の学位が必要で、取得に長年を要するので、専門家は希少で高価です。しかし、適切なツールがあれば、医学知識を持つ者にタスクを委譲でき、医療従事者の負担を軽減できます。看護師プラクティショナーはその好例です。
これがうまく働く前向きなシナリオは、AIがエリートの専門知識のコストを下げ、より利用可能にし、将来の中階級のスキルを持つ労働者の価値を高めることです。つまり中流階級によってAIは良いことになります。
また学位を取得して専門知識を学ぶ必要があるエリート階級の職の価値が下がることになるので、わざわざ大学に行く人が減る可能性も予想されます。
私たちは、大規模な退職人口を抱えています。ほとんどの先進国、中国でさえ同様に、縮小し高齢化しているか、人口が成長していないという問題に直面しています。
これは、高齢者の介護も実際にはさらに多くの自動化が必要なくらい不足している世界なのです。
よって私たちが仕事や職をなくしてしまう心配はデイビッドさんはしていないと語ります。それよりデイビッドさんが心配しているのは、専門知識の価値が低下することです。

わかりやすい例で例えると、タクシードライバーです。GPSを使えば誰しもがドライバーのプロになれる思うかもしれません。ただしそれは大きな間違いです。
GPSが出現する前の時代、ロンドンのタクシードライバーは何年もかけて全てのルートを記憶する必要がありました。これは誰しもができることではないので、彼らをエキスパートにしたのです。
しかし現代では記憶をする必要がなく、スマホがあるだけで十分なのです。このようにかつては価値のあった「ロンドンタクシードライバー」という専門知識の価値ががくっと下がってしまったのです。
とはいってもデイビッドさんはこれが全ての職に起こることは考えにくいと主張します。私達人間がAIより優れている部分が多くあるからです。
私達には適応能力がありますし、常識への理解、相手の気持ちを察することもできます。そしてなんといっても手や足といった身体もあります。
私なりの考え
では今私は何をすべきなのか?上記の考察も含めて感じたことがいくつかあります。
「自分」を一番上手くできるのは自分しかいない。
AIが存在したとしてもしなかったとしても、自分の職が奪われるチャンスは誰にでもあったと思います。ビジネスアイデアを真似されたり、もっと高パフォーマンスの同僚にポジションを奪われたり。AIが出現したことによりあなたの職自体が必要とされなくなってしまう可能性はどんな職にでもあるかもしれません。
ただし、「自分」はAIであってもあなたより上手に行うことは不可能です。なので最終的には「自分」という専門知識(エキスパート)の価値を高めることが究極かもしれません。
具体的には、ポッドキャストやブログ、SNSあるいはユーチューブで「自分」をマネタイズ化する。例でいうとポッドキャストのJoe Roganだったり、ユーチューバだったり。彼らは「自分」の名をマネタイズ化できているので、AIにとってかわれる危険はありません。
マネタイズできなくても、自分の上司やリクルーターとの人間関係に投資することで、「〇〇さんと一緒に働きたい、〇〇さんがチームにいると楽しい」とAIにお願いしてもよいことを好意という感情からあなたにお願いされる可能性もあります。
「自分」というエキスパートを極めると同時に価値を生み出していきたいですね。
そしてAIを利用する側に周るべきだと感じました。AIを使って何ができるのか?AIでできることとできないことの幅広い理解、これを身につけておいて損はないかなと感じました。
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