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多様性が生んだ映画『ブラックパンサー』の社会的影響




現在、最もホットな映画と言えば、マーベル映画シリーズ。『アベンジャーズ』や『アイアンマン』、そして『スパイダーマン』や『キャプテン・アメリカ』など、アメコミの映画版を指す通称MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)は、今や世界中で大人気です。


そのマーベルが先日、サンディエゴで開催された世界最大規模のコミックイベント「International Comic-Con」において、今後の映画展開を発表しました。もちろん、この発表に世界中が興奮しましたが、その理由は単にお気に入りのスーパーヒーローが映画化されるからではありません。メディアが注目したのは、「多様性(Diversity)」に関する取り組みでした。


今回は、マーベル映画が映画やコミックの枠を超えて、世界的な社会現象を引き起こした背景について、特にその「多様性」に焦点を当てて解説します。また、特に2018年に公開された『ブラックパンサー』が、どのようにして多くの人々を魅了したのかを分析していきます。


*この記事は2020年に書いたものです。



スーパーヒーローといえば「白人男性」の時代は終わった?


まず、スーパーヒーローと言えば、どのようなイメージが浮かびますか?

筋肉むきむきの『スーパーマン』や、マントをつけて空を飛ぶ男。

それとも、トム・クルーズのようなスパイ、またはジェームズ・ボンドのようなスリムでダンディなイギリス人のおじさま?


こういったイメージ、少し気づきませんか?

どれも「白人男性」であるという点です。


これは映画やドラマを観て育った人々にとっては、まさに常識でした。ハリウッド映画のスーパーヒーローは、長年、ほぼすべてが白人男性として描かれてきました。


ですが、ここで問いかけたいのです。

「なぜ、ハリウッド映画のスーパーヒーローはみんな白人なの?」

「なぜ、黒人のスーパーヒーローがアメコミにいないの?」

「なぜ、女性の戦士は登場しないの?」

「なぜ、ゲイのスーパーヒーローは存在しないの?」


これらの疑問に対して、マーベルは大胆に答えを出したのが『ブラックパンサー』です。



『ブラックパンサー』が起こした社会現象


『ブラックパンサー』は、2018年2月に公開され、北米では「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」や「アバター」に続く、歴代3位の興行収入を記録しました。さらに、全世界でも興行収入の歴代9位にランクイン。まさに「社会現象」を起こした作品です。


この映画が大ヒットした理由はもちろん、爽快なアクションシーンや、マーベルのシリーズが持つ人気の高さにありますが、それ以上に高く評価されたのが「多様性」の描写です。



多様性のテーマが与えた影響


『ブラックパンサー』では、黒人を中心としたキャスティングがなされ、監督や主要キャラクターもすべて黒人で構成されています。さらに、作中で使用される音楽はアフリカ系アメリカ人のシンガーたちによって演奏され、その点が特に黒人コミュニティから高く評価されました。


加えて、アメリカでは当時、トランプ政権の誕生により白人至上主義的な発言が相次ぎ、社会は「多様性」を否定する方向へ進もうとしていました。このような社会情勢の中で、多様性を尊重する『ブラックパンサー』は、閉塞感を抱える人々に希望を与え、共感を呼びました。



女性キャラクターの強さも新たな魅力


また、『ブラックパンサー』に登場する女性キャラクターたちは、これまでのハリウッド映画とは一線を画しています。特に、ブラックパンサーを支える強い女性戦士たちは、今までの映画における女性像を覆しました。これまで女性はヒロインや被害者として描かれることが多かったのですが、『ブラックパンサー』では、ウカンダの女性戦士たちがパワフルに活躍します。


特に評価されたのは、シュリ(ブラックパンサーの妹)です。シュリは天才的な科学者で、ブラックパンサーのスーツを開発する役割を担っています。このキャラクターが示す「女性もテクノロジーで活躍できる」というメッセージは、特に女性エンジニアに勇気を与え、若い女の子たちにも新たな夢を与えました。



「ブラックパンサー」の敵役と現代社会の鏡


そして、もう一つ注目すべき点は、敵役の描き方です。『ブラックパンサー』の敵役であるキルモンガーは、ティ・チャラ(ブラックパンサー)と深い関係にあり、その主張が完全に悪であるとは言えません。キルモンガーの理念には、実際に共感する部分が多く、彼に感情移入する観客も少なくありません。この点が『ブラックパンサー』をただのヒーロー映画にとどまらせず、現代社会の問題を反映させた作品にした大きな要因です。



チャドウィック・ボーズマンの遺産


最後に、『ブラックパンサー』の主演を務めたチャドウィック・ボーズマンについても触れたいと思います。彼は大腸癌により43歳で亡くなりましたが、その闘病生活を公にはせず、作品に対する情熱を貫き通しました。彼の姿勢は、多くの人々に感動を与え、今でも彼の遺産は多くのファンの心に残り続けています。



結論:映画を超えた社会的影響


『ブラックパンサー』は、ただのスーパーヒーロー映画にとどまらず、世界中で多くの人々に「多様性」という重要なメッセージを届けた作品です。黒人キャラクターや女性キャラクターの活躍、そして敵役の深い哲学は、現代社会を映し出しており、映画業界における新たな扉を開きました。この映画が与えた影響は、今後の映画制作においても大きな意味を持ち続けることでしょう。

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