映画『ジョジョ・ラビット』感想|受け継がない意志という考え方
- Takuya Sakoda

- 2 日前
- 読了時間: 6分

先日、『ジョジョ・ラビット』を2回目の鑑賞した。
コミカルなのに重い。笑えるのに刺さる。そういう映画ってなかなかないけど、これはそれだ。映像美も素晴らしくて、見るたびに新しい発見がある。
ちょうど同じタイミングで読んでいた本が『すべての見えない光』だ。こちらも第二次世界大戦中の話で、ドイツ人の少年とフランス人の盲目の少女が主人公。ジョジョ・ラビットと同様に子供が大人の作った世界に翻弄される様子が描かれている。
2つを同時に体験して、「受け継がない意志」ということについて考えてしまった。
作品概要|監督自らヒトラーを演じたアカデミー賞受賞作
項目 | 詳細 |
邦題 | ジョジョ・ラビット |
原題 | Jojo Rabbit |
公開 | 2019年(日本公開:2020年1月17日) |
監督・脚本 | タイカ・ワイティティ |
原作 | クリスティン・ルーネンズ『Caging Skies』(2004年発表) |
原作はニュージーランド在住のベルギー人作家クリスティン・ルーネンズが2004年に発表した小説『Caging Skies』だ。映画化を担当したのはニュージーランド出身のタイカ・ワイティティ監督で、なんと自らヒトラー役を演じている。この映画でタイカ・ワイティティはアカデミー賞脚色賞を受賞した。
『ジョジョ・ラビット』の簡単なあらすじ
舞台は第二次世界大戦末期のドイツ。
10歳のジョジョはナチスに憧れる普通の少年だ。ヒトラーユーゲント(ナチスの少年団)に入ることを夢見ており、頭の中ではヒトラーがイマジナリーフレンドとして登場する。
ある日、ジョジョは自分の家の屋根裏にユダヤ人の少女エルサが隠れていることを発見する。「ユダヤ人=怪物」と信じて育ってきた彼にとって最初は恐怖の対象だったが、交流を重ねるうちに少しずつ世界の見方が変わっていく。
コミカルな演出の裏に戦争の残酷さと子供の純粋さが同居した、笑えて泣ける異色の作品だ。
ちょうど同じタイミングで読んでいた本が『すべての見えない光』だ。(映画化もされているが私はまだ観ていない。)こちらも第二次世界大戦中の話で、ドイツ人の少年とフランス人の盲目の少女が主人公。ジョジョ・ラビットと同様に子供が大人の作った世界に翻弄される様子が描かれている。
2つを同時に体験して、「受け継がない意志」ということについて考えてしまった。
受け継ぐべきことと、受け継がないべきこと
「次の世代に伝えていかないといけない」という話はよく聞く。
震災の記憶、戦争の悲惨さ、そういったものは語り継いでいかないと同じ過ちが繰り返される。それは正しいと思う。
でも逆に、受け継がない意志というのも同じくらい大切なんじゃないかと思うようになった。
ジョジョが持っていた「空っぽの嫌悪感」

ジョジョ・ラビットの主人公は、ナチスに憧れるドイツ人の少年だ。
映画の中ではヒトラーが彼のイマジナリーフレンドとして登場する。(イマジナリーフレンドとは、子供の頃に頭の中だけに存在する架空の友達のことで、西洋ではわりと一般的な概念だ。)
彼は生まれた頃からこう言われて育ってきた。
「ユダヤ人は悪魔だ。怪物だ。犬を食べる恐ろしい存在だ。」
なので彼にとって、ユダヤ人に嫌悪感を持つことは当たり前のことだった。空気を吸うように自然なことだった。
でも実際に初めてユダヤ人を目にしたとき、彼は怪物や幽霊を見たかのように逃げ出す。そこで気づく。
彼はユダヤ人に何もされたことがない。
嫌悪感はあるけど、直接何か悪いことをされた経験はゼロ。生まれたときからずっとそう言われてきただけだ。私はこれを「空っぽの嫌悪感」と呼びたい。
身近にもある空っぽの嫌悪感
これは映画の中だけの話じゃない。
ポーランドの友人たちに話を聞くと、お母さん世代の人たちが出稼ぎでベルギーに行ったという話をよく聞く。そのお母さんが帰ってきて子供に話す。「ベルギーの人たちにこんなひどい扱いをされた」と。
毎日のようにそういう話を聞かされると、直接何もされていないのにベルギーの人への嫌悪感が自然と芽生えてくる。具体的なエピソードがあればあるほどイメージがつきやすくなる。
これも空っぽの嫌悪感だ。
SNSが嫌悪感を増幅させる
今の時代で怖いのがソーシャルメディアだ。
ブラック・ライブズ・マターという運動を例に挙げると、もちろん実際に差別を経験した人も多くいたと思う。でも中には一度も直接差別されたわけではないけど、SNSに時間を使うにつれて自分が所属するグループへのヘイトを目にし続け、空っぽの嫌悪感がどんどん育っていった人も少なくないはずだ。
しかもSNSのアルゴリズムはこれを知っている。ヘイトや怒りのコンテンツを見せると人はそのプラットフォームにより長く滞在するということが分かっているので、そういった投稿を優先的に見せるようになっている。
開くたびに怒りが積み上がる仕組みだ。
やり返しの負の連鎖を断ち切るには
歴史を見ると、やられたらやり返す、やり返されたらまたやり返す、という連鎖がずっと続いていることが分かる。
これを断ち切るには理論上一つしか方法がない。誰かがやり返すのをやめること。
当然ながらこれは簡単なことではない。でも特に空っぽの嫌悪感を持っている人に対しては、それを変えることは不可能じゃないと思っている。自分は直接何もされていないのだから。
あと思うのが、過去に悪いことをした人が後になって良いことをしていても「あの人は昔こんなことをしたから褒めるべきじゃない」と言いがちな場面がある。でも私はそれはちょっと違うと思っている。過去の過ちと今の行いは別で評価すべきだと思うし、これも受け継がない意志と通ずるものがある。
ワンピースが教えてくれたこと
こういう視点を持てるようになったのはワンピースのおかげだ。
ワンピースには魚人と人間の関係が描かれているパートがある。最初は「魚人って最悪な連中だな」と思わせるように描かれているけど、後になって実は魚人たちは過去に人間から酷い仕打ちを受けてきた歴史があることが明かされる。
さらにその後に登場する「新魚人海賊団」は、自分たちは直接差別された経験はないのに子供の頃から語り継がれてきたヘイトを受け継いでしまっていて、人間を攻撃しようとする。これがまさに空っぽの嫌悪感の描写だ。
作中では魚人のお姫様が子供たちにそういったヘイトが生まれる場面を見せないようにするシーンもある。受け継がない意志の体現だと思った。
この読み方を教えてくれたのが「ドロピザ」というYouTuberだ。世界史とワンピースを絡めて深く読み解いてくれるチャンネルで、ワンピースを知らなくても世界史の勉強になる。めちゃくちゃおすすめなので興味があればぜひ。
映画『ジョジョ・ラビット』を観た感想のまとめ
ジョジョ・ラビットは表面上はコミカルな映画だけど、空っぽの嫌悪感というテーマが今の世界情勢と深くつながっていると感じた。
過去の悲しみや怒りを次の世代に伝えることは大切だ。でも同じくらい大切なのが、根拠のない嫌悪感を受け継がない意志を持つことだと思う。
映像美も独特で素晴らしいのでぜひ一度見てみてほしい映画だ。























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