『A Real Pain / リアル・ペイン 心の旅』感想|「感情を出せる人」が羨ましいと思ったことはあるか
- Takuya Sakoda

- 1 日前
- 読了時間: 6分

ポーランドに住む自分がポーランドを舞台にした映画を観た。それだけでも引きつけられる理由になったのだが、観終わった後にじんわりと残ったのはロケーションの話ではなかった。「痛みに大きさなんてない」というシンプルなメッセージがしばらく頭から離れなかった。
1.『A Real Pain』はどんな映画?
2024年制作。Disney+で観ることができる。監督・脚本・主演を兼ねるジェシー・アイゼンバーグと、もう一人の主人公ベンジーを演じるキーラン・カルキンのW主演だ。
ポーランド系ユダヤ人の血を引くアメリカ人のいとこ2人が、亡くなったおばあちゃんの故郷を訪れるために初めてポーランドを訪れる。ワルシャワを起点にルブリン近郊の収容所跡を訪れるホロコースト・ツアーに参加し、最後におばあちゃんが住んでいた家を訪れる。
ハリウッド映画的な大きな事件もない。主人公が大きく変わるようなカタルシスもない。どちらかというとインディペンデント系のしっとりした映画で、人によっては「で、結局何だったの?」と感じるかもしれない。でも自分はこのモヤっとした感じが、むしろ好きだった。
2.『A Real Pain』タイトルの意味
英語で「he's a real pain」というと、「あいつは本当に厄介なやつだ」というような意味になる。映画の冒頭、問題ばかり起こすベンジーの顔にそのままタイトルが重なるように映し出される。「こいつが主人公か」と思わせる、うまい掴みだ。
ただ映画が進むにつれて、このタイトルが「厄介者」だけを指しているわけではないとわかってくる。それぞれのキャラクターが、大きさは違えどそれぞれの「痛み(pain)」を抱えている。ベンジーも、デヴィッドも、ツアーで出会う他の参加者もそうだ。
3.2人の対照的なキャラクター
この映画の核になるのは、ベンジーとデヴィッドの対比だ。
ベンジーは、とにかく感情が全部外に出る。感情の起伏が良くも悪くも激しい。
人の目を気にせずに、ワルシャワ蜂起記念碑(Warsaw Uprising Monument)の前で思いっきりポーズしながら写真を撮ったり、電車の一等席で落ち着かず「昔ユダヤ人は迫害されていたのに、(その末裔の)俺たちがこんな豪華な席に座っていいのか」と言い出し、怒って本当に後部車両に移ってしまったり。ルブリンの収容所を訪れた後は、帰りのバスの中で号泣する。(このシーンは本当に沁みた)そのため周りに迷惑をかけたりびっくりさせることもある。ただそれと同時に出会った人を惹きつける力を持っている。
デヴィッドはその逆だ。
一言でいうとしっかりしてそう。この旅行でも計画をしっかりと立ててきて、可愛い子どもと奥さんもいて、ぱっと見は幸せそうで生活も安定している。でも実は強迫性障害の薬を服用しながら、常に周りの目を気にしながら生きている。目印象に残るシーンのひとつに、ツアーメンバーの前でその内側を少し吐き出す場面がある。そこで彼が語るのが「ベンジーが羨ましい」という気持ちだ。感情をあれだけ自由に出せることへの嫉妬にも似た憧れだ。
正直、自分はデヴィッド側の目線で映画を観ていた。(おそらく視聴者の大半がそうだろう。)ベンジーに振り回される形で物語が進んで行くので、こんなめちゃくちゃな奴が同じツアーにいたら、本当にイライラするだろうなと共感してしまう。誰しも”ベンジー”のような人が周りにいるはずだ。「(ベンジーが)部屋に入るだけでその部屋のムードがよくなる」。そんなふうにデヴィッドがベンジーのことを語るシーンには多くの人がその妬みに共感させられるはずだ。
ツアーの最後お別れのシーンも印象的だ。ベンジーは他のメンバーたちとハグをしながら、他のメンバーは皆「今日会えて本当によかった」と告げて別れる。それと比較してジェシーに対してのメンバーの態度はあっさりとしている。
感情を激しく出す人がなぜか人を引きつける。というか人と繋がりやすい。それが正しいかどうかはわからないけれど、この映画の中ではそう描かれていた。自分もふと、周りにそういう人がいるなと思い当たった。感情を全部出せる人を見ると、羨ましいような、もどかしいような、複雑な気持ちになることがある。あの感情をうまく表現しているシーンだ。
ところが、陽気でいつも幸せそうなベンジーだが、彼の暗い過去が映画の中頃で明らかになる。誰しもが「痛み(pain)」を抱えているのだ。
4.この映画のメッセージ:「痛みに大きさは関係ない」

映画全体を通して残ったのはこのメッセージだ。
ソーシャルメディアが私たちの生活に浸透した時代。毎日のように過酷な病気や環境に苦しむ人々の情報が我々に流れてくる。そんな社会だからこそ、自分の痛み(悩み)と向き合おうとした時に「でも自分なんてまだマシな方で」と考えてしまう。健康で貧困でもなく、家族もいて生活も安定をしている。そんな自分が文句を言ってはいけない。「痛み」があるなんて認めては恥ずかしい。そう考えがちだ。我慢をすることが美徳と考える習性もある。
果たして本当にそれでいいのか?そう私たちに問いかけるような映画だと感じた。痛みの大きさを比べても意味はない。痛みは痛みだ。その痛みとしっかり向き合い、悲しみ、信頼できる人に打ち明け、自分なりに付き合っていく、それが重要だと考えさせられた。この映画では、その答えを明確に提示してはいない。でも観た後にそう感じた。そしてそれで十分だと思った。
5.ポーランドに住む自分が観て感じたこと

ポーランドの見慣れた国鉄内のシーンやワルシャワの空港、そしてワルシャワやルブリンの街並みが出てきた時はやっぱりテンションが上がった。また映画全体としてのカラーグレーディングもどことなく曇っているカラーがポーランドっぽい雰囲気なのがよかった。
私はまだルブリン近郊の収容所跡を訪れたことがないが、ホロコーストの歴史をツアーで「学ぶ」ことへの違和感も、映画の中でうまく描かれていた。広島の原爆ドームを訪れた人も、似たような感覚を持つかもしれない。知識として受け取ることはできる。でもそれが「腹の底に落ちる」かどうかは別の話だ。ベンジーはそれを隠せなかった。
6.俳優について
ベンジー役のキーラン・カルキン、すごかった。ホーム・アローンのケビンの兄役で知られる人物だが、この映画での存在感は圧倒的だった。脚本にないシーンを即興で演じる(インプロバイズ)こともあったと言われていて、それがキャラクターのリアリティをさらに高めていると思う。収容所からの帰り道に号泣するシーン、あれは本当に心を動かされた。
7.『A Real Pain / リアル・ペイン 心の旅』こんな人におすすめ
静かな映画が好きな人、2人の会話劇が好きな人、ポーランドやユダヤ人の歴史に興味がある人には刺さると思う。90分と短いので気軽に観られる。ドラマチックな展開や爽快な結末を期待すると、肩透かしを食らうかもしれない。でも観終わった後に、誰かと少し話したくなる映画だ。
























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