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意志力の戦略的マネジメント|毎日を快適にする意志力の使い方

仕事に集中してやり遂げる、ダイエット中にお菓子の誘惑を断ち切る――こうした「意志力(Willpower)」は、私たちの行動を左右する重要な力です。


実は、意志力は筋肉と同じように鍛えたり、節約したりできることをご存知でしょうか?


本記事では、スタンフォード大学の名著『スタンフォードの自分を変える教室』をもとに、意志力を効率的に管理し、毎日を快適に過ごすための戦略を紹介します。

意志力は鍛えることができる




意志力は筋肉と同じ


「意志力」を考える際、以下の3つに分類すると理解しやすくなります。


1) I Will - 「マラソンを走り切るぞ!」


2) I Will Not - 「今夜はお酒を飲まないぞ!」


これらを支えるのが


3) I Want - 「6月の結婚式で可愛いドレスを着たい!」


この「I Want」が最も重要で、目の前の誘惑に負けずに本当にしたいことを思い出す鍵となります。


意志力を司るのは主に前頭皮質という脳の部分で、これは額のすぐ後ろ、脳の前の方に位置します。この部分は筋肉と同様にトレーニング可能です。


研究によれば、特定の行動を繰り返すことで、その行動を制御する脳の部分が成長し、密度が増すことが示されています。例えば、ジャグリングをする人の脳では、動く物体を追う部分が特に発達しています。


では、どのようにしてあなたの脳(ウィルパワー)を鍛えることができるのでしょうか?



おすすめのウィルパワー筋トレ方法


脳の筋トレ

1. 瞑想


最も効果的な筋トレ法は瞑想です。多くの人が1時間の瞑想を想像しますが、5分間の短い瞑想でも効果的です。


研究によると、瞑想の総練習時間が3時間を超えると自制心と集中力が向上し、11時間を超えると脳に変化が見られます。


2. 一呼吸して落ち着く


欲求が湧いたら、ゆっくりと呼吸をし、自分を客観的に観察します。川の流れを想像し、流れていく葉っぱをあなたの欲求と見立てましょう。こうすることで、本当の目標と欲求の理由を客観的に考えることができます。


3. エクササイズ


おそらく最も優れた方法はエクササイズです。HRV(心拍変動)が高いほど、意志力が強い状態と言われています。エクササイズを行うことで、HRVが向上します。


4. 定期的な意志力チャレンジ


筋トレと同様に、意志力も使用することで徐々に強くなります。目の前にチョコレートを置いて我慢したり、冷たいシャワーに耐えたり、少しずつ小さな挑戦をしてウィルパワーを鍛えましょう。



意志力も疲れる


一日中筋トレをすると筋肉が疲れるように、脳も疲労します。つまり、意志力には限界があるのです。私たちは日常的に多くの決断を下しており、例えばどのネクタイを着けるか、ランチに何を食べるか、会議でどちらの案を採用するかなどです。決断は脳にとって大きなエネルギーを消費します。


意志力は決断だけでなく、満員電車での我慢や退屈な会議への参加などでも使われます。しかし、意志力のタンクは一つしかなく、これらの行動でどんどん消耗されてしまいます。研究によれば、決断力は朝が最も高く、次第に低下していくとされています。重要な決断は朝に行い、スティーブ・ジョブズのように毎日同じ服を着ることで無駄なエネルギーを使わないよう心がけたいですね。






いい人であることが悪を導く?


スキャンダル

“ダイエットのために60分走った自分は偉い!”と自分を称える行為は、実は危険かもしれません。この意志力と自制心の落とし穴について説明します。


なぜ有名人はスキャンダルを起こすのか?


世の中には多くの偉業を成し遂げた著名人がいます。彼らのニュースは主に喜ばしいもので、スポーツでの新記録や特定コミュニティの権利を守るための活躍が報じられます。


しかし、有名人は良いニュースだけでなく、スキャンダルでも私たちを驚かせます。


例えば、不倫や麻薬問題などがその一例です。


プロゴルファーのタイガー・ウッズは数々の偉業を達成しましたが、多くのセックススキャンダルで世間を賑わせました。これらのスキャンダルは、単に彼の意志の力の限界によるものなのでしょうか?その理由はもっと複雑なようです。。



良いことをすることが悪いことをする許可を与えてしまう?


プリンストン大学で生徒を使ってある実験が行われました。


1つのグループには、「ほとんどの女性は賢くない。なので女性は家庭で家事をするべきだと思いますか?」と質問をしました。もちろんほとんどの人の答えは「それは絶対に間違っている。」でした。


2つ目のグループには、「女性の中には賢くない人もいる。女性の中には家庭で家事をした方がいい人もいる。賛成ですか?」と質問をしました。その答えは「ん〜ちょっと間違っているかもね、どうだろう。」と、確かなNoではない答えが大半でした。


その後、2つ目のグループに模擬のスタッフ雇用シチュエーションを設定し、特に男性が多い建設や金融業界でのスタッフ採用の決定を行ってもらいました。


その結果、1つ目のグループが男女平等に雇用したと思われますが、驚くことに実際には1つ目のグループが男性を好んで多く雇用する結果となったのです。


これは精神学的にも証明されていることで、Moral Licensing(モラルライセンシング)というようです。


人は良いことをすると自分はいい人だと思い込み、自分の感覚や衝動で決断を起こすようになります。分かりやすく言い換えると、良いことをすることが、悪いことをする許可を与えてしまう、ということです。



この効果の面白いポイントはただ良い行いをすることを考える、イメージするだけでも、悪いことをする許可を与えてしまうということです。


ある実験で、チャリティー団体にお金を寄付するかどうかを考えるだけで人々は自分への褒美としてショピングモールでお買い物をしてしまうということも発見されています。


このいい例が、自己啓発のためのイベントです。


イベントについて調べ、参加予約をしただけなのにその後に気分がよくなりご褒美にテレビゲームをした、なんてことはありませんか?



じゃあこのモラルライセンシングがウィルパワーの弱さとどう関係してるの?


これが私たちがケーキを爆食いしたり、お酒を飲みすぎたりすることとどう関係しているのでしょうか?


想像してみてください。


あなたは結婚式を控えたマミです。冬に食べ過ぎたせいで、去年見たウェディングドレスがきつくなっています。しかし、結婚式までの時間があるので、スリムになる目標を立てました。


その目標達成のために毎日ランニングをします。「今日は頑張った!頑張った自分は偉い、”いい人”だ!」と自分を褒めます。そして、「頑張ったからご褒美にシュークリームを一個食べよう」と考えます。


翌日もランに励みますが、昨日のシュークリームが頭から離れません。「今日は昨日より20分長く走ったから、シュークリームを食べて自分を褒めよう!」と思ってしまいます。


数日後、”スリムになってウェディングドレスを着る”という目標が、”シュークリームを食べる”ことに変わってしまいました。このように、ウィルパワー(意志力・自制心)において行動を”良い行い”・”悪い行い”とラベル付けすると、その行動を長続きさせるのが難しくなります。


プログレスの危険性

意志力

プログレス(成長の過程)もまた危険です。これは、私たちがゴールに逆行する行動を取ったり、進むスピードを落としてしまう可能性があります。


シカゴ大学院での研究では、ダイエットを試みていた被験者に成功しているというプログレスを伝え、報酬として「りんごかチョコレートのお菓子どう?」と提示したところ、85%がチョコレートを選びました。


一方、プログレスを知らなかった被験者は58%がチョコレートを選び少なかったとのことです。プログレスはモチベーションを高める一方で、「自分は頑張っている」と考えるのではなく、「目標に対する自分の真剣さを示す証拠」と捉える必要があります。そうすれば、この行動に対して「本当に好きで、もっとしたい」という気持ちが生まれるでしょう。




自己批判の危険性

2週間お菓子我慢ができない人の多くはきっと、『私は自分に甘すぎる!』と自分を責めるのではないでしょうか? しかし、本当になにかを我慢したりやりとげたい場合は、これは間違ったアプローチかもしれません。 なぜ自分を責めることがよくないのでしょうか?この謎に迫っていきます。


ストレスと脳の報酬システムの関係


私たちの脳というのは本当によくできていて、わたしたちを命の危険から守ってくれる(Fight or Flight)だけではく、私たちの気分の低下からも守ってくれます。


American Psychological Associationによると、ストレスがかかった時の対処法は、脳の報酬システムを機能させることのようです。


この報酬システムはあなたを直接幸せにするもの、というよりは人参をぶら下げて、幸せを約束して行動におこさせるものに近いです。


なので、ストレス発散で爆買い、爆食い、テレビゲームなどに走ってしまいます。


特に恐怖、命の危機などを感じた時、人間の脳は報酬システムを機能しやすくなるようです。


タバコの怖い宣伝やパッケージをみるともっと喫煙したくなるのもこのためです。


こういった不健康な報酬システムを脳に教え込むのではなく、


運動をしたり、友達と話したり、お風呂につかったり、音楽をきいたり、


セロトニンやオキシトンといった本当に身体をリラックスさせてくれるハッピーホルモンを生産できる、そんな報酬システムを脳に教え込みましょう。




What-the-hell Effect




面白い脳の習性に「もうどうにでもなれ効果(What-the-hell effect)」があります。


例えば、禁酒をしているとしましょう。順調に進んでいたのに、ある日ストレスから1本飲んでしまいました。「自分は誘惑に負けた」と思いつつ、もう1本、さらに2本、3本とビールを開けてしまいます。


似たような経験はありませんか?


これはあなただけではなく、科学的に証明されている脳の習性なんですね。


あるちょっと意地悪な研究でダイエットをしている被験者に嘘の情報で、3kg増えたよ!とと伝えてみました。


やばいと思ってダイエットをもっとがんばるかと思いきや、被験者は落ち込み、罪悪感を感じ、こういった気持ちを庇うために食べ物に走ってしまうという結果になりました。


ダイエットだけではなく、禁酒、禁煙などでも同じことが見受けられるようです。


こういった結果から、ドューク大学のマーク教授とルイジアナ州立大学のクレア教授は、罪悪感を与えるのと反対のアプローチをすればいいのではないか、と予想を立てました。


ダイエット中の女性に、味覚の実験という嘘をついて、お菓子を食べさせました。


1回目の実験で被験者に4分でドーナツを食べさせました。(お腹いっぱいに感じさせるため)


1つのグループには何もいわず、もうひとつのグループには、『自分を責めないで、大丈夫だよ!実験だから仕方ないよ!」と慰めの言葉を優しくかけました。


そして2回目の実験で、味覚の実験といつわり、3種類のお菓子をたべさせた。


このときは”それぞれのスイーツを食べる量は本当に必要最低限の少々づづでいいから!”と忠告しました。


そして、実際にこのお菓子をどれだけたべたのかを見比べてみると、なんと慰めをうけたグループの方が、28グラムのスイーツだったのにたいし、慰めをうけなかったグループは70グラム食べた、という結果が出ました。


スイーツ実験

こういった実験からもわかるように


自分を責めることは、さらなるストレス、落ち込みを招くに対し、


自分を慰め、サポートすることは、さらなるモチベーションをうみ、自制心を生むと言えます。


また自分慰めた方、他者からのフィードバックを聞くようになったり、経験から学ぶこともできるようになります。


ぜひ友達を慰める時のように自分にも言葉をかけてあげましょう。



ソーシャルプルーフ

social proof

人間は集団やグループの行動を正しいと判断する性質があります。これを精神学者はソーシャルプルーフと呼びます。


悪い習慣をやめたり、新しい目標を始めたりするには意志力が必要です。このソーシャルプルーフを意志力にうまく活用することで、自分自身を変えることができるかもしれません。



成功する営業マンの秘密は?



イメージしてみましょう。


あなたは環境に優しいソーラーパネルを販売する営業マンです。今日は裕福なエリアの住宅街を回り、各家庭にソーラーパネルのインストールを提案します。


環境への配慮や電気代の削減を強調し、しっかりとしたデータを用意して自信満々に臨みましたが、全く売上が上がりません。詳細なデータを提示し、環境問題の深刻さを情熱的に説明しても、誰も「はい」と言ってくれません。


一方で、同じエリアで営業している同僚は次々と契約を結んでいます。彼の営業方法を少し覗いてみましょう。


ノックノック


同僚:「このエリアの住宅街では、90%の人がソーラーパネルを導入しています。導入していないのはあなたの家庭だけですよ。」



人類存続の秘密?ソーシャルプルーフとは?

エネルギーコスト削減

この話は作り話ですが、似たような実験があります。カリフォルニアのサン・マルコスで、エネルギーコスト削減(水、電気、ガス)を目的に家庭のドアにパンフレットを残しました。パンフレットは2種類です。


1つ目は環境保護を訴える内容で、「エネルギーを使わないことで子供たちの将来に貢献できる」「エアコンの代わりに扇風機を使おう!」などと示しています。


2つ目はシンプルで、「この地域の99%の家庭が無駄な電気を使っていない」とだけ記載されています。


時間が経ってから、エネルギー消費量が減ったのは2つ目のパンフレットを受け取ったグループでした。


この実験からも分かるように、私たちは「自分が属する集団の他のメンバーがしていることは正しい」と考えがちな傾向があります。


これを精神学者はSocial Proof(ソーシャルプルーフ)とよびます。


このソーシャルプルーフのおかげで私たちの先祖は生き延びました。食料が不足する際、集団が東へ移動すれば、それに従うことで食べ物が見つかりました。また、災害に対する知識がなくても、集団が避難すれば、その後に続くことで津波を避けることができました。


誰もが「自分は他とは違う」「私は強い意志を持っている」「クラスでいじめがあっても、決して笑ったりしない」といった理想を抱いていますが、実際には多くの人が集団に流されているのが現実であり、これが人間の本質かもしれません。


このソーシャルプルーフを理解し、効果的に活用することで、意志力を高めることができます。

またある精神学者は、なにか悪い習慣をやめさせたり、新しい習慣を身につけるうえで効果的なのは、こういったいい効果があるよ、長期的にみてこんなベネフィットがあるよと、論理的に説得するよりも、プライドや恥にアプローチするほうが、もっと効果的だと言っています。 それをうまく使い成功した例が以下の話です。

ニューヨークのマンハッタンのチャイナタウンにあるスーパーマーケットで万引きが頻発していました。そのため、スーパーマーケットは万引き犯を捕まえた際、犯人の写真と名前、住所をレジ横の掲示板に掲示することにしました。


その結果万引きの数を減らすことに成功しました。


一方、シカゴ警察署は売春犯罪を減少させるために様々な対策を試みていましたが、効果が見られませんでした。そんな中、シカゴ市長はメディアを通じて次のように発表しました。「今後、売春で逮捕された者は刑務所に入るだけでなく、親や子供、兄弟、友人、仕事先にもその事実が伝えられる。」 その結果どんな方法よりも売春犯罪の数を減らすことに成功することができたようです。


SNSをうまく使う

では、プライドと恥をどのように意志力に活かせるでしょうか?


プライドを効果的に使う方法として、誰かが見ていると思い込むことや、自分の成功を他のメンバーと共有できると信じることが考えられます。


「今日は仕事で疲れたから、習慣にしようとしていた夜ランをスキップしようかな…?いや、今日も走り切ったらインスタグラムで報告できる!頑張ろう!」


「禁酒チャレンジ中だけど、ビールが飲みたいな。1杯くらいいいかな…?いや、友達の〇〇がどこかで見ているはずだから、飲まないぞ!」


このようにソーシャルプルーフを味方にすると心強いですね。


SNSにはネガティブな面もありますが、上手に活用すれば意志力を高める武器になります。 私自身もカフェインカットチャレンジを半年行った時に、何度もコーヒーを飲みたくなったことがありました。


そんな時は「いかんいかん、これを我慢すればまたライブランやSNSでみんなに報告できるぞ。我慢しよう!」と振り切ることができました。 ぜひ皆さんもソーシャルプルーフを上手く利用してみてはいかがでしょうか?


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