『Me and Earl and the Dying Girl/ぼくとアールと彼女のさよなら』|「クサくない」等身大の心地よく泣ける映画
- Takuya Sakoda

- 3月6日
- 読了時間: 5分
更新日:3月13日

知名度が低い良作を見つけるのが好きなのだが、その部類に入る映画で何度も観たことがあるのが、「Me and Earl and the Dying Girl」。日本語版タイトルは「ぼくとアールと彼女のさよなら」だ。私が好きな映画の上位に入る一本で、日本ではAmazon Prime Videoでレンタル・購入が可能だ。
どんな映画?
あらすじだけ聞くと、典型的な「病気女子もの」に聞こえる。白血病と診断された女の子と、近所に住む高校生の男の子グレッグの話だ。ストーリーラインとしては、「The Fault in Our Stars(きっとうまくいく)」と似ている。ただ、あちらはいかにも泣かせにくるタイプの映画。この映画は全然違う。当事者たちが高校生というのが、この映画のリアリティの核心だと思う。白血病で余命を宣告されたとしても、高校生は高校生だ。周りにどう思われているか気になるし、同情されたくない。そのツンとしたあっさり感が、映画の前半をずっと支配している。全然クサくない。それが最大の特徴で観ていて居心地が良く感じる理由のひとつだろう。
グレッグというキャラクターのやるせなさ
主人公のグレッグは、どこのグループにも属さず、誰にも嫌われず、でもみんなを積極的に引っ張ることもない。そんな八方美人的な高校生だ。彼はお母さんに言われて、半ば義務感でレイチェルのもとを訪れる。そこから少しずつ関係が築かれていくのだが、グレッグが正直に言うとけっこう何が自分がしたいのかわからない、そんな自分にフラストレーションを感じているように見えるシーンもある。義務でもないのに、お願いされたらやらないと気が済まない。だからといってやる気満々なわけでもない。そんな何がしたいか分からない自分にも嫌気がさしている感があり、それが妙にリアルで共感できる。残り少ない命と向き合っている人と、どう接すればいいかわからない。逃げたくなる自分もいる。外側は大丈夫なふりをしたいのに、中はぐちゃぐちゃだ。そのフラストレーションをどこへぶつければいいかわからない。高校生という年齢ならではのやるせなさが、すごくよく描かれていると思う。
前半と後半の空気感
映画の前半はドライなユーモアが溢れている。重い題材なのに、笑えるシーンも多い。それが後半に入るにつれてじわじわと変わっていく。その落差が、この映画の構成の優れた点だと感じる。最初から泣かせにくるのではなく、気づいたら引き込まれている。そういうタイプの映画だ。
Olivia Cookeの演技
レイチェル役を演じたOlivia Cookeさんの演技が、本当に素晴らしい。ハウス・オブ・ザ・ドラゴンにも出ている方だ。役作りのために実際に坊主にしたそうで、そのリアリティも見ごたえのひとつだ。ただそれ以上に印象的なのが、終盤でほとんど台詞がなくなるシーンの演技だ。弱っていくにつれて言葉が少なくなる。それでも、表情と目線だけで全部を語ってしまう。台詞に頼らずに感情を伝えるのは本当に難しいと思うのだが、彼女はそれをやってのけている。
音楽の使い方
映画全体の音楽の選び方も好きだ。インディーっぽい、どこか淡々とした音楽がこの映画のトーンとよく合っている。特に終盤のシーン「ほぼ台詞のないあのラスト」での音楽と映像の組み合わせは、何度見ても鳥肌が立つ。
好きなセリフ
映画の中で、ひとつ忘れられないセリフがある。グレッグと仲のいい先生が言う言葉だ。見た目はタトゥーありのちょっとファンキーな先生だが、実は優しい。よくいるキャラクターだ。そのセリフがこれだ。
「たとえ誰かが亡くなった後でも、その人のことをまだまだ知り続けることができると思う。ちゃんと向き合い続ける限り、いつまでもその人の人生は広がり続けてくれるんだ。」
この先生自身、亡くなった父親のことを生前は嫌な奴だと思っていた。でも父が亡くなった後、父の知人たちからいろんな話を聞いた。自分の知らなかった父の一面を、死後になって知った。これは映画のテーマを一言で言い表しているセリフだと思う。死って悲しいことだけど、ちゃんと向き合い続ければ、亡くなった後もその人のことを学べる。それはポジティブなことだ。自分のおばあちゃんが亡くなった後に故郷を訪ねて、昔の知り合いから話を聞くような、そういうことだと思う。
日本語タイトルについて
少し文句を言わせてほしい。この映画の日本版の扱いがどうにも惜しい。タイトルが「ぼくとアールと彼女のさよなら」だが、「さよなら」って、それはもうネタバレではないか。英語タイトルの「the Dying Girl」もそのまま訳せば「死にそうな女の子」になるから、どうしようもない翻訳の難しさはわかる。ただ、オフィシャルウェブサイトのキャッチコピーの「きみと過ごした、忘れられない209日。」はさらに踏み込んでしまっている。209日という数字が何を意味するか、考えれば分かってしまうし、やっぱりクサくてベタに聞こえる。少なくともグレッグの場合は「ぼく」というキャラではない。英語のまま「Me and Earl and the Dying Girl」と聞くと、不思議とクサくない。この映画の雰囲気に合っている。翻訳と宣伝の難しさを改めて感じた。

こんな人におすすめ:心地よく泣ける映画
インディー系の、ゆっくり進む映画が好きな人にはきっと刺さると思う。ドラマチックな展開や感情の爆発を期待すると違うかもしれないが、じわじわと引き込まれるタイプの映画が好きなら間違いない。また、しっかり泣きたい人にもおすすめだ。ただしぶわっと一気に泣かせてくるタイプではなく、気づいたら涙が出ている感じだ。原作は小説で、本が好きな人にも向いていると思う。
Amazon Prime Videoでレンタル300円前後で見られる。それだけの価値は確実にある。
























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