「ストレス解消」「ストレスが貯まる」など、日常生活の中でストレスは身体に悪いもの、悪者扱いをされています。
しかし、ストレスは私たちにはなくてはならないものなのです。
Kelly McGonigalさんの「The Upside of Stress(日本名:スタンフォードのストレスを力に変える教科書)」をもとに、知られざるストレスの秘密についてシェアします。
きっとストレスをポジティブに受け止められるようになるはずです。
目次:
ストレスの歴史
そもそもなぜ”ストレス”は健康に悪いというイメージをもたれるようになったのでしょうか?
時代は1936年のカナダに遡ります。
カナダ人の内分泌学者、ドクター ハンズ・シールは、ホルモン移植の研究のため、実験用ラットに、牛の卵巣からとったホルモンを移植したり、胎盤や腎臓からとったホルモンを移植したり、様々な方法を試していました。
いろんな方法を試しましたが、どれも結果は失敗。
かわいそうなことに実験用ラットは全て死んでしまいました。
”もしかして、牛のホルモンがラットによくないのか?”
と思ったドクターは、他の動物のホルモンも試したが、どれも同じ症状が起き、しまいには死んでしまいました。
そこでドクターは思ったのです。
”もしかして、ラットが死んだ原因は、移植されたものが原因ではなかく、針で刺されたりするような、この移植のプロセスで経験することが原因なのかな?”
そしてドクターは、このラットにとってとても厳しい環境を、他の方法で再現することにしてみました。
むちゃくちゃ暑い・寒い環境に閉じ込めたり、休憩なしでエクササイズさせたり、爆音で圧倒させたり、、、様々な方法を使って、この厳しい状況を再現してみました。
すると、どの状況下でもラットはみんな48時間以内に死ぬ、という結果になったのです。
こうやって、ドクターシールはこの実験用ラットに対して行っていたこと、そして、それに対してのラットの反応をストレスと呼ぶことにしました。
シール博士は、医師でもあったため、様々な病気で悩む患者を診断していました。
奇妙なことに、様々な病気をかかえた患者の多くが、同時に、熱、疲れ、食欲が無い、といった、その病気の症状でないはずの症状にも悩まされていました。
ラット実験から数年後、こういった患者をみて、ドクターはふとラット実験のことを思い出しました。
”もしかして、こういったアレルギーや心臓病という大きな病気は、実験ラットのように、ストレスが溜まりすぎたことが原因で起きたのではないか?”
そうして、ドクターシールは、”ストレス”は身体が外部からの影響に対して起こす全ての反応、というふうに定義してしまったのです。
ここでの問題は、ラットのように針で刺されたり、熱されたことに対しての反応だけではなく、外部に適応するために起こす行動もひっくるめてしまったことだったのです。
ドクターシールはその後の人生を”ストレス”の認知度を高めることに従事しました。
ストレスマネジメントの本も出しました。
この「ストレス」という言葉はバズり、多くの人が使い始めました。
人によっては上司とのやりとりでの不快な感覚を「ストレス」と呼んでみたり、
元々ドクターシールが定義した意味とは違った意味で使い始める人も増えてきました。
そんな彼に目をつけたのが、タバコ産業。
タバコ産業が、お金を払うかわりに、ストレスが健康にどれだけ悪いかという記事を書かせました。
シール博士は、アメリカ政府に喫煙がストレスレベルを下げることにとてもいい方法だ!とまで証言をしてしまったのです。 (参照:The “Father of Stress” Meets “Big Tobacco”: Hans Selye and the Tobacco Industry. by PubMed Central )
では、シール博士は大嘘付きだったのでしょうか?
実はそうでもないのです。もし、私たちが実験用ラットが経験したようなことを経験したら、もちろん、私たちも死んでしまいます。
問題は、シール博士は、ストレスを、暴力や尋問だけではなく、私たちに身体におこる全てのこと、と定義してしまったことなのだ。
実はシール博士は、実験を続け、全てのストレスが身体に害ではない、いいストレスもあるということを発見して、それを広めようとしましたが、時はすでに遅し。メディアの力で、もうストレスのイメージをかえていくことは手遅れとなってしまっていたのです。
この話を簡単にまとめると、多くの人が浮かべるストレスのイメージは、ラットを使った実験によるものなのです。
もしあなたがラボラットなら、あなたの1日はこうなります。
朝起きて急に電気棒で関電させられ、しかも1日のいつこの電気棒でまた関電させれるかわからない。
バケツで冷水を急にかけられ、溺れるまで水の中で泳がされる。
1人ぼっちの牢屋に閉じ込められ、食べ物もろくに与えられない。
こんな、ハンガーゲームのような毎日、あなたは過ごしているでしょうか?
現代の問題は、ほとんどのストレスの害に対しての記事、情報が拡散しているが、これは全て、ラット実験でしか証明されていないことなのです。
例えば、ある妊娠している女性が、”妊娠中の女性がストレスを抱えてしまうと、その生まれてくる赤ちゃんに悪影響を与える”という記事を読んでパニックしてしまいました。
そしてこの女性は、ストレスが赤ちゃんに害だからといって、ストレスをなくすために飲酒をしてしまったのです。
ストレスが害という間違った情報のせいで、無駄にパニックやうつになるだけではなく、誤った判断、もっと身体や赤ちゃんに悪いことをしてしまったのです。
ちなみに、2011年の研究によると、
本当に高度のストレス(テロリストのアタックから逃げる生活、長期に渡るホームレス生活)のみ、赤ちゃんに悪影響(未熟児など)を与え、
多くの人が日々かかえるストレスは全く悪影響を与えないということがわかっています。
むしろ、こういった毎日のストレスは生まれてくる赤ちゃんにいい影響のようです。
お母さんの子宮の中で生産されるストレスホルモンが、ストレスへの対応の仕方を赤ちゃんの神経系に教える、ということも研究で証明されているようです。
メディアや大衆の力は恐ろしいですね。
ストレスのプラス効果
では具体的にストレスにはどのようなプラス効果があるのでしょうか?
大きく分けて3つのプラス効果があります。
1. チャレンジングなシチュエーションに備えさせてくれる
火事場の馬鹿力という言葉があります。ー《火事のときに、自分にはあると思えない大きな力を出して重い物を持ち出したりすることから》切迫した状況に置かれると、普段には想像できないような力を無意識に出すことのたとえです。
実はこれ、ただのことわざ止まりではないようです。
このような話は珍しいことではなく、火事場の馬鹿力が実現したというレポートが歴史上にはたくさん残っているのです。
この少女たちも、どうやって自分がこのトラックを持ち上げたのか全く分からない。でも不思議とできた。
というように、人間の身体は凄まじいストレス下に置かれると、不可能を可能にするような行動ができるのです。
このようなストレスがかかった状況におかれると、私たちの身体の交感神経系は、できるだけ効率よく、この状況を乗り越えるためのエナジーを生産するように、全身に指示を出すのです。
肝臓は脂肪と糖分を燃料として使うために、血流に流し、
もっともっと酸素を心臓にとどけるために、呼吸は深くなり、
脳や筋肉に酸素や脂肪、糖を伝達するために、あなたの心臓の鼓動も速くなります。
ストレスホルモンのコルチゾールやアドレナリンがでてくることで、こういったエナジーを効率よく使うようにしてくれます。
さらに目の瞳が大きくなり光をもっととりいれるようになったり、聴覚もするどくなり、脳は入ってくる情報をもっと速く分析するようになります。
これに関して思い出すのが、大学生のころに受けた、英語のTESOL試験での経験です。
交換留学生に応募するのに、TESOLでのある一定のスコアが必要とされれました。
この試験でいい結果をださなかれば、交換留学生になれない、いい結果をださないといけない、
そういったプレッシャーのせいか、前夜に全く眠れず、テストを迎えることとなったのです。
睡眠不足での身体へのストレス、さらに緊張という精神へのストレスの中、テストが始まりました。
すると不思議なことに、今まで以上にテストに集中でき、終わってみれば、今までベストのスコアを出したです。
また、ストレスがかかると、エンドルフィン、ドーパミン、アドレナリン、テステトロンといったホルモンも放出されます。
こういったホルモンは私たちのムードをよくしてくれることから、ハッピーホルモンともいわれ、
こういったストレスのかかったシチュエーションがどこか気持ちがいい・心地が良いと感じられたり、楽しめるようにもなったりするのです。
これで思い出すのが、バンジージャンプです。ジャンプするまえのあの感覚は言葉にできない。恐怖というストレスがかかっているけど、どこか気持ちがいい、、そして癖になってしまうのです。
2.他者との繋がりを深めてくれる。
オキシトン、というホルモンについて聞いたことは?
人とハグをしたり、家族や恋人、友人と一緒に時を過ごしたり、ペットと触れ合ったり、、
そういうことから生産されるホルモンのため、よく”ラブホルモン”と呼ばれるます。
このオキシトンがでると、他者への信頼、社交的恐怖心の削減、そして他者に対して優しくなれたり、
また、他者が考えていること、他者の気持ちをよく理解できるようになる、といった効果があります。
そしてこういった効果だけではなく、オキシトシンには、私たちに勇気を与えてくれる、といった効果もあるようです。
さらにオキシトシンはエンドルフィンというモルフィンのような働きをするホルモンの生産を活性化させてくれる効果もあります。
このような効果の為に、世の中には、オキシトンスプレー(鼻にさしてシュッシュッと使うやつ)もあるようです。
そんな人気者のオキシトシンですが、あまり知られていない秘密があります。
オキシトシンはストレスホルモンなのです。
ストレスに反応して、私たちの内分泌器官はオキシトシンを放つのです。
オキシトシンが放たれるとあなたは他者との繋がりを求めるようになります。
まるで、ピンチになった時にストレスがあなたに「周りに助けを求めなさい。」
とガイドしてくれているようにも感じます。
では、これがどのようにしておこるのでしょうか?
なにかとても災難があり、ストレスのかかった時に、いつもは全く連絡しない家族や友人に連絡したくなった経験はないでしょうか?
例えば僕自身の例をあげます。
20代半ばのことです。
5年ほど海外に住んでいますが、当時は親に連絡をすることは全くありませんでした。
それは親と仲が悪い、というわけでなく、その海外生活が楽しすぎたからだと思います。
親もいつも”連絡がないことはいい知らせ”といって全く気にしていないようでした。
そんなある日、バリで生活をしている日のことでした。
いつものように原付バイクでジムいっている途中に財布を失くしてしまったのです。
どこを探してもない。
財布をよく失くすので、すごく落ち込み、そしてすごくイライラ、ストレスかかった状態になりました。
すると、なぜか、親の声が聞きたくなり、気づけば、父にラインで電話をしていました。
いつもは滅多に電話なんてしないので、父も嬉しそうでした。
今思い返すと、これはきっとストレスがかかったことで、オキシトンが生産され、親に電話をするという行動に結びついた、という説明がつきます。
そしてさらに、このオキシトンにはあまり知られていない健康効果があります。
オキシトンは心血管の健康を促進してくれるようだ!
心臓がオキシトンを吸収すると、心臓の細かいダメージを治癒できるようです。
よく、ストレスは心臓によくないと聞くが、それは100パーセント正しいわけではないようです。
これは、多大な量のアドレナリンが原因でおこる心臓病のことだけのことで、実際ストレスによって生産されたオキシトンは、私たちの心臓も強くしてくれるのです。
3. 学習しさらなる成長へと導いてくれる
そうなんです。ストレスは私たちに学習をさせ、成長へと導いてくれるのです。
ストレスが発生し、のちにストレスのかかっていない、ノンストレスの状態にもどるために、
わたしたちの身体と脳は、コルチゾールやオキシトシンといったホルモンの力を借ります。
コルチゾールやオキシトシンはストレスがかかることによって放たれるホルモンです。
こういったホルモンが、精神的な、そして肉体的なリカバリーを可能にするのです。
ほとんどの人は、”ストレスから回復する”と考えがちですが、
実はそれは真逆のことで、回復することもこのストレスの働きの一部なのです。
ストレスによるリカバリーは急におこるものではありません。
強いストレスを感じたあと数時間の間、私たちの脳はおこった出来事を忘れないように、しっかりとアップデートを行います。
このアップデートが起こっている間、ストレスホルモンはさらに増え、これが私たちの学習能力と記憶力アップに繋がります。
ある出来事のことが頭から離れない、そのこと以外なにも考えられない、誰かにそのことを話せずにはいられない、なんてこと経験したことありませんか?
それはこのストレスによる脳のアップデートが起きているからなのです。
もしそれが成功した出来事であれば、自分の行動を全て振り返り、何が成功をもたらしたのか何度も考えるはずです。
そして、それが失敗した出来事であれば、きっとあなたはなにが起きて、なにかちょっと違ったことができなかったか、もっと他の方法はなかったか、など分析するでしょう。
このリカバリーのプロセスでは、あなた少しは感情的になります。
興奮した状態が続いたり、イライラしたり、落ち込んだり、
実はこれは、脳があなたにこの出来事のことを覚えておくように、
そして将来同じようなストレスのかかったシチュエーションがやってきても大丈夫のように、仕向けてくれているのです。
まとめ
どうでしょう。ストレスのかかった状態に遭遇した時、自分の身体、そして脳ではこんなことが起きていたのか、第3者の立場でみることができましたか?
そうすると、ストレスのプロセスに感謝でき、そしてこれから抱えるであろうストレスもそんなに悪くないなと思えてきませんか?
ストレスのかかったシチュエーションをスキルアップ、知識アップのいい機会と捉えていきましょう。
英語に"What doesn't kill you make you stronger(辛いことが人を強くする)" という言葉がありますが、それを証明するような研究結果があります。
バッファロー大学の心理学者が2010年に行った調査(参考:Whatever Doesn't Kill Us Can Make Us Stronger by University at Buffalo)では、
病気、友人や愛する人の死、経済的困窮、離婚、家庭不和、隣人トラブル、性的なものを含む暴力の被害、家事や洪水などの災害のサバイバーなど
ストレスフルな出来事を経験した人を4年間追跡調査しました。
その結果、何も経験しなかった人に比べて彼らはうつ病のリスクが低く、身体的にも健康で、人生にも満足している人が多い、
さらには、再度ストレスフル出来事を経験した時にネガティブな影響を受けにくかった、という
予想とは逆の結果が報告されています。
もちろん、過去の辛い経験が直接的な原因とは言えませんが、
偶然とは思えない結果だと思いませんか?
このブログを通して、少しでもみなさんのストレスに対する考え方が変わってくれたら嬉しいです。
Thank you, Sterss !!
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